まず細かい所まで計測しやすくするため縦軸20mA/div、横軸20V/divとやや低めにとり、−Eg1(バイアス電圧)を0〜10V、10〜20V、20V〜30V、30〜40Vの4段階に分けてgmの値を出してみます。

グラフがやや大きくなりますが、僅かな電圧変化を描くため仕方ありません。ロードラインは8Ω負荷に対し真空管を4本パラにしたとして、32Ωですが簡略化して30Ωで考えます。


       


このグラフによるgmの計測からゲインの表を作るにあたり、プレートフォロワとカソードフォロワそれぞれのゲインは下の図のような考え方で計算します。

またμの値はグラフより、バイアス電圧が変わってもそれほど大きく変化していないのでおおよそ「5」とし、増幅度もとりあえず「5」としました。


             




負荷の値は基本的に8Ω(4パラで約30Ω)で考えますが、私の好きな手持ちのオールドフルレンジには16Ωのものが多いので、一応16Ω負荷(4パラで約60Ω)も考慮に入れました。もちろん4Ωは対象外です。

以上の計測と計算による下の表を見ると、バイアスの深い10V入力付近ではゲインが0,26倍(赤文字)となり、簡易実験を行った時、2,5Vしか出力できなかった実態と一致します。

バイアス電圧(−V) 0〜10 10〜20 20〜30 30〜40
gm(mho) 22m 18m 12m 9m
Zout(Ω) 227 278 417 556
プレート側ゲイン(倍)8Ω 0,59 0,49 0,34 0,26
プレート側ゲイン(倍)16Ω 1,04 0,88 0,63 0,49


またカソードフォロワ側のゲインは下の表となります。

バイアス電圧(−V) 0〜10 10〜20 20〜30 30〜40
gm(mho) 22m 18m 12m 9m
Zout(Ω) 45 55 83 111
カソード側ゲイン(倍) 8Ω 0,4 0,35 0,27 0,21
カソード側ゲイン(倍)16Ω 0,57 0,52 0,42 0,35


これらの値から上下のゲインの比率を出してみると、バイアス電圧が浅い(低電圧)ほど徐々にゲインが増えるのは普通のPP同様3次歪ですが、上下のゲイン比で2次歪も増えてゆくのがわかります。

バイアス電圧(−V) 0〜10 10〜20 20〜30 30〜40
上下ゲイン比 8Ω 1,48 1,4 1,26 1,24
上下ゲイン比 16Ω 1,82 1,69 1,5 1,4


仮に下側(プレートフォロワ)出力段につながる移送反転P-K分割回路のカソード抵抗値を、プレート抵抗値の80%(16Ωの時は70%)とすればこの比率は下の表のようになるはずです

そしてこれに初段管の2次歪が加われば、負帰還や正帰還無しでも取りあえず歪率だけは低いアンプが出来ると予想されます。そこで以上のデータを基に回路を設計してみました。

バイアス電圧(−V) 0〜10 10〜20 20〜30 30〜40
上下ゲイン比 8Ω 1,18 1,1 1,01 0,99
上下ゲイン比 16Ω 1,27 1,18 1,05 0,98


出力段のゲインをカソードフォロワ側の最大値0,4倍として、入力電圧が40Vならば出力16Vとなり、これがrmsならば11,2Vとなるため出力は16W弱と思いがちです。

しかしカソードフォロワにはプレートフォロワの2,5割り増しつまり50Vのドライブ電圧が入るので、仕上がり電圧として14Vrmsつまり24W出力程度まで期待できると考えられます。





またP-K分割に内部抵抗の低い6S19Pを用いているのは力強い音がするからではなく、パワー段のグリッド抵抗が4個もぶら下がるため、10:8のバランスがくずれないよう、出来るだけ低負荷で送り出したいからです。

今後の考察は真空管OTLの実作で最大の問題点である電源をどうするかに入ります。例えば14V出力時、8Ωの負荷には1,75Arms流れ、これに450Vが掛かってきますから700Wの電源が必要です。

この値は仮に色々な理由を付けて半分でごまかしても350W、ステレオで700Wとなります。つまり真空管OTLにおいて「ちゃんとした電源で鳴らそう!」という考え方自体、コスト的、スペース的、重量的に無理があるとも考えられます。

ところで出力段のゲインを検討した結果、別のプランが浮かびました。




つづく







その2、明かされるゲインの実態
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